フレキシブルタワーバー
2015/09/12 (2017/10/06 updated)
フレキシブルタワーバーとは
  • このHPのコンテンツの一つ「Foresterについて少し調べました」から窺えるように、私は現在SUBARUForesterに乗っています。この車はSUVにカテゴライズされますが、山道でも思ったよりキビキビと走り、高速でもパワーを生かした快適走行で、ドライブそのものが楽しい車だと思っています(*1)。

  • そしてForester関連でネットを漁っていると、必ず目にするであろうパーツとして、STIフレキシブルタワーバーがあります。これはストラットタワーバーの一種です。中心にピロボールジョイントを持つことが特徴で、その名の通りフレキシブルです。

  • 私は別にモータスポーツを - 例えばジムカーナなど - やっているわけではありませんが、こういったスポーツ系パーツには、もうオッサンであるにも関わらず、心がくすぐられます。ストラットタワーバーはボディの剛性を上げる半面、突き上げの影響が反対サイドにも及ぶといった欠点もあり、スポーツ走行をする気が無い場合は検討対象に入らないのですが、剛性向上のイメージとフレキシブルという相反するものが混ざっていることから興味を持ちました。

  • どういうものかある程度理解したいと思い、引き続きネットを探したところ、特許出願の資料が掲載されているサイトの紹介を見つけ、これを読んで理解をまとめることにしました。尚、私は車やメカ系とは全く縁が無いところで生きる人(*2)なので、以下の説明についても勘違いなど多々あるかもしれません。予めご容赦下さい。

登場パーツの把握
  • フレキシブルタワーバーを理解するには、その目的であるコーナリング性能の向上、つまりコーナリングで何が起きていて、どこが問題なのかを知っている必要があります(順序が逆ですけど...パーツから興味が出たので仕方なし)。そこで、ストラット式サスペンションとタイヤの間でつながっているパーツ類を書いてみることから始めました。車の正面から見てパーツを抽出したのが図1です。

    図1.正面から見たところ

  • アッパーサイドフレームとロワサイドフレームがただの四角になっていますが「断面」と理解下さい。ロワアーム中に赤い矢印があります。これは通常時でも車体の重量自身によって引張り荷重があることを示しています。前もってわかっている荷重なので、さすがにこれでボディが歪むような設計はしていないでしょう。

  • 次は上側からアッパーサイドフレーム、ストラット支持部、タイヤを見たのが図2です。フレームがちゃんと棒状に見えるようになりました。フレームが前方に長いのは、ストラット支持部側に固定された片持ち梁のイメージであることを示しています。

    図2.上側からフロントを見たところ

  • 次のセクション以降では、図中にパーツの注釈は書かれず、本文内でいきなりパーツ名が登場します。図1,図2をぼんやりとでも良いので頭に入れておいて頂きたいと思います。

コーナリングで起きていること
  • さて、実際にコーナリングが始まるどうなるか、正面から見た様子を書いたのが図3です。

    図3.正面から見たところ(コーナリング中)

  • コーナリングフォースがタイヤの下側に働き始めます。コーナリングフォースとはタイヤの設地部が路面に引っ張られて歪むことにより生ずる力で、旋回方向の内側に向かってかかります。このコーナリングフォースによって、旋回内輪側のロワアームが車輌外側に引っ張られます。ロワアームからの引っ張りによってフロントクロスメンバが歪み、結果としてストラットタワーが内側へ倒れてきます。

  • もちろん旋回外輪側にもコーナリングフォースがかかります。もともと荷重によってロアアームが外側へ引っ張られていましたが、これをキャンセルする車輌中心側への方向です。これでコーナリングフォースの効果が下がることもありますが、フロントクロスメンバの歪にはヒステリシス特性があり、車輌外側への変位から内側への変位へ転ずるには、ある程度の力が必要(*3)です。結局残った力ではヒステリシスロスに阻まれ、旋回外輪のフロントクロスメンバ歪みは、ほとんど変わりません

  • 次はコーナリング中の挙動を上側から見ることにします。

    図4.上側からフロントを見たところ(コーナリング中)

  • 先に説明したように、旋回内輪側のストラットタワーは車輌中心側へ倒れますが、その際前方側のサイドフレームの曲りが大きい(*4)ため、捻れも伴っています。旋回内輪はコーナリングフォースで外へ引かれていることと、図4で示すサイドフレームの歪により(*5)、車輌中心側に向きがずれます。この結果内輪舵角の減少...タイヤの向きと旋回方向のずれが増大します。

従来のストラットタワーバーを付けると
  • ここで、従来のストラットタワーバーを付けたケースについて考えてみます。

    図5.上側からフロントを見たところ(ストラットタワーバー装着)

  • ストラットタワーの変位によって、ストラットタワーバーに歪が生じます。この歪から生じるタワーバーの曲げモーメントによって、ストラットタワーの変位と捻れが緩和されます。

  • ストラットタワーバーは剛体のため、歪の節点は車輌中心よりも旋回外側にあります。このため旋回外輪側の接続点には逆向きのモーメントが働きます。しかし、そのモーメントが小さいため、フロントクロスメンバのヒステリシスロスに吸収され、外輪側での捻れや変位は発生しません

中心に可動点を持ったタワーバーを付けると
  • 剛体のタワーバーで説明したように、タワーバー旋回外輪側接続点では逆向きの曲げモーメント、すなわち外輪を車輌中心側へ向ける力が働きます。剛体のタワーバーでは曲げモーメントが小さいために効果が見えませんでしたが、この外輪側曲げモーメントを大きくすれば、更に性能向上が見込めそうです。

  • ここで中心に可動部をもつタワーバーを付けたケースについて考えてみます(フレキシブル要素追加されていますが、あえてフレキシブルタワーバーとは表現していません)。

    図6.上側からフロントを見たところ(中心に可動点を持つタワーバー装着)

  • このケースでは可動部がタワーバーの中心にあるため、曲げモーメントの向きもバーの中心を境にして変わります。狙い通りではあるものの、節点が中心に来たことから内輪側シャフトが短くなり、曲げモーメントも小さくなります。これは、内輪側ストラットタワーの変位及び捻れ緩和効果を小さくする可能性があります。

  • また外輪側の曲げモーメントも内外対称ではあるものの、十分に大きくないためヒステリシスロスによって効果が消される傾向にあります。

そしてフレキシブルタワーバーを付けると
  • 中心に可動部を持ってくることで、モーメントの内外対称化はできましたが、肝心のモーメントが足りないという状態です。その対応として中心点を車輌後方側にずらして左右シャフトを長くし、モーメントを大きくしたのが、フレキシブルタワーバーになります。

    図.7上側からフロントを見たところ(フレキシブルタワーバー装着)

  • モーメントを大きくしたことによって、内輪側ストラットタワー変位の緩和効果は大きくなりました。単にエンジン上部のインタークーラを避けるために曲げたのではなく、部品との干渉が無くなったのは、むしろ派生効果になります。

  • そして外輪側の曲げモーメントも大きくなったので、ようやくフロントクロスメンバのヒステリシスロスに打ち勝って、外輪を旋回方向へ捻ることができるようになりました。

  • 説明の中でストラットタワーの捻れに対する曲げモーメントの大きさに注目していますが、その効果を上げるためにフレキシブルタワバーとストラットタワーの接続点は、なるべくストラットタワーの前方側にあるべきだというのは、言うまでも無く感覚的にわかることでしょう。

どんな感じになるだろうか
  • フレキシブルタワーバーを付けたとき、どんなドライブフィールとなるか考えてみました。コーナリングに入ったとき、内輪コーナリングフォースの変化から生じる前荷重ブレーキから車がふわっと浮くピッチング(シーソー)挙動が抑えられ、そのままロールの小さい状態で走れるようです。

  • 内輪と外輪ともに旋回方向にタイヤが向くようになり、操作に対して素直に車が反応するように感じられるのでしょう。また、内輪の役割がコーナリングで大きくなりますが、これはドライブフィールとしては...やはりオンザレール感覚ですかね。

  • そして可動部があることで、悪路など上下方向の突き上げは、普通にいなすと予想されます。運転しやすくなっても乗り心地(*6)への影響が小さいのであれば、スポーツ目的以前に「付けても良さそうだ」という気持ちになってきます。

  • 私の車も、もうすぐ点検を迎えますが、そのときこのパーツについて相談してみようかな...。意味を理解して冷静に判断するつもりが、逆に火がついて興奮する感じになってきちゃいました。
Notes
  • 当然ながらオーナーとしての贔屓目が入っていることはご理解下さい。「要はスバル信者のステマでしょ」と言われたら「そうかもしれない...冷静なつもりが本当に洗脳されているかも...」の回答になります。
  • エンジニアですが、全く別の業界です。機械工学や自動車工学に触れたことはありません。
  • 一般的に固体材料に力をかけると変形しますが、金属のように弾性があるものは力を抜くと変形も戻ります(弾性変形)。しかしあるレベル(降伏点)を超えて変形させると力を抜いても変形は戻りません(塑性変形)。塑性変形した部品を戻すには、また変形が始まるまである程度の力が必要になるため、応力と変形の関係は下図のようにヒステリシスループを描きます

    ※本図は「CAE技術者のための情報サイト」さんの「低サイクル疲労|材料強度学」ページから拝借致しました。

    ただフロントクロスメンバが塑性変形かと言われると...厳密には弾性変形でも小さいループながらヒステリシスはあるらしいので、フロントクラスメンバの変形は弾性ヒステリシスとして扱っていると理解しています...うう〜自信が無い。

  • フレームのしなる感じがうまく描けていないです。
  • タイロッドの位置関係に依存します。
  • もともと少し固め。なので、またちょっと固くなっても気付かなかったりして。
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