オートマチックトランスミッションの種類
2017/08/15
オートマの種類が増えてきた
  • オートマ...オートマチックトランスミッション(Automatic Transmission)の略ですが、マニュアルトランスミッションに比して、2000年代以降は完全に主流となっています。

  • そのオートマですが、近年はCVTやDCT等が混ざり種類が増えてきています。何がどんなものなのか、いまいちわからないことも多いため、今回ざっくりと調査/整理してみました。今回扱うオートマは下記です。
    • ステップAT
    • 平行軸歯車方式
    • CVT : Continuous Variable Transmission
    • DCT : Dual Clutch Transmission

クラッチ機構と変速機構
  • オートマの話を始める前に、一般的なトランスミッションの構造ですが、クラッチ機構変速機構に分かれています。
    • クラッチ機構 : エンジンからの動力を伝達する
    • 変速機構 : トルクと回転数を変更する

  • 最もシンプルな例として図1にマニュアルトランスミッションの構造を示します。図の左側から説明します。
    • エンジンは内部のクランクシャフトを図示しており、そのシャフトがフライホイールへ伸びています。
    • フライホイールと変速機構を接続するクラッチ機構には乾式単板クラッチが使用されています。
    • 変速機構にはシンクロメッシュ(*1)の歯車変速が使用されています。
    • オレンジ色の歯車から伸びているのがアウトプットシャフトです。


    図1 : マニュアルトランスミッションのクラッチ機構と変速機構

  • オートマについても図1と同様にクラッチ機構と変速機構の組み合わせがあります。以降の図ではエンジンのクランクシャフト部を省略しますが、代表的なオートマについてクラッチと変速機構の組み合わせを見ていきます。

ステップATの構造
  • 昔はオートマと言えば、このステップATを意味していましたが、異なるオートマとしてCVTが現れてから、区別のためにステップATと呼ばれるようになりました。CVTの「連続ギア」に対して「有段(ステップ)ギア」を意味しています。


    図2 : ステップATのクラッチ機構と変速機構

  • ステップATに分類されるトランスミッションは、変速機構に複数のプラネタリーギアセットを使用します(*2)。右側にあるオレンジ色の棒がアウトプットシャフトです。最終段プラネタリーギアセットのプラネタリーキャリアに接続されています。クラッチ機構はトルクコンバータか湿式多板クラッチですが、日本ではトルクコンバータがメインです。

  • 図2はステップATの断面図なのでプラネタリーギアセットがわかりにくいでしょう。そこで図3にプラネタリーギアセット正面から見たリングギア,プラネタリー(ピニオン)ギア,サンギアとの関係を示します。プラネタリー(ピニオン)ギアが2個しかないのは図の都合です。ご勘弁下さい。


    図3 : プラネタリーギアセット(正面)

  • ステップATの変速方法について説明したいところですが、間違いなくその説明は長くなるため、別レポートで扱いたいと思います。まずは変速機構部にすら多板クラッチが多用されているデリケートな仕組みを実感下さい。

平行軸歯車方式の構造
  • 先程ステップATとして説明したオートマ登場時、基本特許は既に米国で取得されていたため、ステップATを使用するにはロイヤリティを払う必要がありました。この特許を回避するために作られた独自方式オートマが平行軸歯車方式です。日本ではホンダマチックという呼び方がわかりやすいです。


    図4 : 平行軸歯車方式のクラッチ機構と変速機構

  • 図4で一目瞭然ですが、クラッチ機構にトルクコンバータを使い、変速機構では、マニュアルトランスミッションの歯車変速機構におけるシンクロナイザが湿式多板クラッチに置き換わっています。当時の状況でそのメンテナンスを考えると非常に挑戦的な設計だったのではないかと思います(*3)。ただしバイクでは多板クラッチを利用するので、その開発に自信があったのかもしれません。

  • ホンダマチックという呼称は消えていますが、この構造はホンダがアキュラブランドでステップATに手を出すまで、CVT以外のホンダオートマ車に適用されていました。まだこの関係の特許も出しているみたいです。

CVT方式の構造
  • CVTは文字通り「連続的にギア比を変えるトランスミッション」です。日本の中/小型車では主流のオートマです。


    図5 : CVTのクラッチ機構と変速機構

  • CVTは変速機構にCVTを使用します。クラッチ機構はトルクコンバータか湿式多板クラッチです。ステップATと同様にトルクコンバータを使用するタイプが主流ですが、ホンダのマルチマチックが湿式多板クラッチを採用しています。アウトプットシャフトのプラネタリギアセットは、レシオカバレッジを上げるための副変速機です。

  • CVTはドライブ側(赤)とアウトプット側(青)のプーリー径を油圧で可変させることでギア比を制御します。決まったギア比は無いため「連続的可変」となります。

  • プーリー間を接続するベルトは金属チェーン金属ベルトの二種類があり、図5(a)は前者、図5(b)は後者を意識したイラストになっています。主流は金属ベルト方式です。金属チェーン方式はスバルのリニアトロニックで使用されています。また金属チェーンと金属ベルトではアウトプットプーリーへの力の掛け方が下記のように異なります。
    • アウトプットプーリーを引いて(張力で)回す : 金属チェーン
    • アウトプットプーリーを押して(押力で)回す : 金属ベルト

DCT方式の構造
  • DCTはもともとスポーツカーに使用されているトランスミッションです。日本ではGT-Rとランエボが、湿式多板クラッチタイプのDCTを使用しています。


    図6 : DCTのクラッチ機構と変速機構

  • DCTはクラッチ部と変速部が密接に関係するため、違いはクラッチ機構部が湿式多板か、乾式単板かぐらいです。クラッチと変速部ギアセットが奇数段グループと偶数段グループに別れた構造を持っています。それ以外はマニュアルトランスミッションとほとんど変わりません。

  • 例えば2速ギア走行時、奇数段グループは既に3速ギアをシンクロナイザを介しカウンターシャフト(図6:薄水色の棒)へ接続して待機状態になっています。よって偶数側クラッチから奇数側クラッチへ接続変更するだけでギア変更が終了するため、高速なギア切替が可能になります。

次回は
  • 大まかにオートマの構造を説明しました。やはり仕組みが理解しにくいのはステップATだと思います。そこで次回はステップATの中枢パーツであるプラネタリーギアセットについて説明したいと思います。
Notes
  • 各歯車の中心軸に挟まれた小さなリングが見えると思います。それはシンクロナイザを意味しています。カウンターシャフトを2本にしていることに特別な意味はありません。
  • あちこち見ていると、リングギア+サンギア+プラネタリー(ピニオン)ギアのワンセットをプラネタリーギアと呼んだり、ピニオンギアと呼ばれる部分を指している場合とばらばらで、文脈から読み取る必要があります。本レポートではギアの組み合わせを指す場合「プラネタリーギアセット」と書いています。
  • ステップATでも多板クラッチ使っていますが、それは最近の話です。ホンダマチック登場時のステップATはリングギアの固定にブレーキバンドを利用していたと思うので、比較的楽にメンテナンスできたのでは。
2017/08/15 : 初版
2018/07/25 : タイトル&次回説明変更
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