USB-DACとPCオーディオ(3)
2018/06/30
ハイレゾ音源とは
  • 今回購入した USB-DAC:TEAC UD-301-SPハイレゾ対応です。前々回のレポートで書いたようハイレゾ対応が欲しかったわけでなく、購入したら偶然そうだった(*1)というものでした。このハイレゾ...ハイレゾリューション音源とは何かですが、CDよりも高い(High)分解能(Resolution)を持ったオーディオデータです。

  • CD/DVDの音質ですが、前回レポートで書いたようにPCMデータとして下記になります。
    • サンプリング周波数 : 44.1〜48kHz
    • 量子化分解能 : 16bit (96dB)

  • PCM相当データとして上記のスペックを超えていればハイレゾ音源と定義されます。

音源無し、機器無し、ついでに耳も無し
  • CDのサンプリング周波数は44.1kHzですが、これはサンプリング理論から言って、22kHzの周波数まではきちんと再現されることになります。そして人の可聴周波数は15〜18kHzなので、現状のCD音質で聴こえる範囲は十分カバーされていることになります。

  • サンプリング周波数の高いハイレゾ音源では、更に再現可能な周波数帯域が広がります。例えば96kHzサンプリングなら、48kHzまで再現可能です。これは聴こえる云々よりは、感じる(*2)といった類のものなのかと想像します。そしてオーディオ機器も、この周波数帯域に対応しなければなりません。リスナーが聴こえているかどうかに関わらずです。

  • また、音圧(Sound Pressure)データの量子化分解能を16bitから24bitに上げたハイレゾ音源の場合、ダイナミックレンジが広がるわけですが、当然オーディオ機器は、それに見合う高S/N比を持つことが必要になります。

  • その良さを感じ取ろうとしたら、聴ける以前に、オーディオ機器や場所にも気を配る必要があります...はたして...わかるんだろうか? まぁ、こういった無形の何かを追い求めるのは趣味として、趣味としては最高に楽しいのではないかと、私個人は思います。

DSD:Direct Stream Digital
  • 先程ハイレゾ音源の定義は「CDのスペックを超えるPCM相当データ」と書きましたが、ハイレゾ音源にはPCM以外にDSD(Direct Stream Digital)という規格もあります。このDSDデータは...1bitで量子化を行っています。

  • 1bitデジタルデータで、ある時刻の音圧をいかに表現するかですが、非常に雑に説明すると積分回路に似ています。下記はRC回路ですが、電圧Vを印加すると時定数RCの時間でVcが上がっていきます。途中で電圧Vを切れば、今度は放電によってVcが下がっていきます。つまり電圧Vの印加時間によってVc出力電圧を制御できることになります。

    Figure 1: RC回路

  • そしてオペアンプで積分回路を作ると充放電の変化が一定になります。この場合、RCで決まる時定数に比して十分に早い速度で入力電圧パルスの幅を変えた場合、Figure 2のようになります。

    Figure 2: オペアンプ積分回路の入力をパルス状に変化させる

  • オペアンプの出力部分ではギザギザ...いわゆる量子化誤差が見えていますが、この傾きはRCの値で決まるので、可聴周波数範囲より十分高い領域に設定した上でLPF(Low Pass Filter)でカットします。結果的に青線のアナログ波形が残ります。

  • つまり、DSDとは入力パルスの時間軸変化データなのです。入力パルスのデータレートはDSD規格によって決まり、2.8MHz/5.6MHz/11.2MHzとなっています。PCMのサンプリング周波数と意味が全く違う点は要注意です。

DSDネイティブ再生
  • 各USB-DACのDSD再生仕様を調べると「DoP または ASIO2.1 をサポート...」等の説明を見つけることができます。

  • まずDoP(Dsd audio Over Pcm frames)ですが、DSDデータをPCMのフレームに入れてサウンドデバイスへ送る方式です。PCMはサンプリング時間毎に24bit(*3)の音圧データを持ちますが、この上位(MSB側)8bitに中身がDSDデータであることを示すマーカーを入れます。サウンドデバイスはPCMフレームの上位8bitからデータがPCMかDSDかを判別します。

    Figure 3: DoP : PCMフレーム内のDSDデータ

  • さて、何でこんなややこしい方式があるかですが、これはWindowsの標準ドライバであるWASAPIがPCMしか扱えないことに起因しています(WASAPI/ASIOについては前回レポート参照下さい)。

  • DSDネイティブデータを受け入れ可能なサウンドデバイスでは、ASIOによるデバイスドライバをメーカーが独自開発してPCユーザへ供給しますが、これはサウンドデバイス開発側の負担(*4)になるため、ある程度大きなメーカーでないと対応できません。結果的に小さなメーカーが開発したサウンドデバイスはDSDに対応できないわけですが、これはDSD普及を妨げる要因の一つになっていると考えられます。それを解決するのがDoPなのです。

  • サウンドデバイスメーカー側から見るとDoPを使えば、ブラックボックス扱いだったUSBに手を加えることなく取り出したデータを見て判別するだけなので、後はサウンドデバイスメーカーの設計領域で処理できます。これが市場でDSD対応機器を増やす効果があるという訳です。

  • ちなみにASIO2.1は、DSDデータをそのまま受け入れ可能なASIOという意味です。DoPを使用したWASAPI経由のDSD対応と、ASIO経由のDSDネイティブデータの転送についてFigure 4に示します。

    Figure 4: DSDデータ転送方式

  • サウンドデバイスがASIOのデバイスドライバを持っていない(が、DoPによってDSD再生が可能なデバイスの)場合、再生アプリ側でWASAPI出力データをDoPに設定します。他の純PCMデータとのミキシングはできないので、WASAPI排他モードは必須です。WASAPI排他モードの場合、デバイスドライバは再生アプリに従うので特に設定はありません。

  • DSDネイティブデータに対応したASIO(ASIO 2.1)を使用する場合、再生アプリ側でネイティブなDSD出力を選びます。ですが、ASIOドライバはあるけれど、DoPのみ対応のサウンドデバイスも存在するため、そこは仕様を確認して下さい。Figure 4で示すようにドライバとの組み合わせで3種類の出し方があります。サウンドデバイスを含めて自分の環境は何をカバーしているのが確認し、それを設定に反映することがポイントです。

ハイレゾ音源を楽しむ...
  • ハイレゾの音源データとして下記のあることがわかりました。
    • CD/DVDより高スペックのPCMデータ
    • DSD 2.8/5.6/11.2MHzデータ

  • PCMは良いとして、DSDを出力できる代表的な再生アプリはやはり foobar2000 になります。DSD出力に必要な foobar2000用プラグイン及び設定等については Google先生 にお尋ねください。PCM/DSD共に再生可能なUSB-DACに送るデータをPCMにするのかDSDにするかは単に好みで決めれば良いと思っています。

  • とりあえずデータとしてハイレゾ音源があれば、PC及びUSB-DACで対応することは可能ということになりますが、CDからデータを持ってきてもハイレゾ音源というわけではないので、別途音源を購入する必要があります。

  • そして先にも書きましたが、ハイレゾ再生に見合うオーディオ機器環境も必要になります。

  • これらを考えると、さすがにPCオーディオを始めましたという状況では、ハイレゾをネイティブに楽しむのは難しいかと。なので、せめてCD音質のデータを再生アプリまたはUSB-DAC自身等でアップサンプリングして楽しむというのが最初の始め方ではないかと思います。

  • 次回はCD音質データの扱いと、オーディオ環境内でのPC応用を扱いたいと思います。
Notes
  • どちらかと言えば、電源が独立、USB-Bus経由ではない点などに拘っていました。
  • 皮膚で振動を感じ取るとか...?
  • 従来のCDは16bitです。
  • デバイスを作ることとデバイスドライバを作ることは全く別の技術です。そもそもUSBのIPを使うことでソフト/ハードともUSB関連開発リソースを不要と考えていたはずで、いきなりデバイスドライバ作れと言われても...。バスケのチームに向かって「予選突破のためにゴルフの試合で勝たねばならない」と言ってる感じです。
2018/06/30 : 初版
2018/07/14 : DSDネイティブ再生追記
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