ステップATの変速方法
2018/08/08
ステップATの内部構成
  • 前回のレポートではステップATを理解する準備として、その中枢部品であるプラネタリーギアセットを扱いました。今回はようやくステップATの変速方法に話が移ります。

    Figure 1 : ステップATの構成

  • Figure 1にステップATの構成例を示します。エンジンの回転を変速機構部に伝達するクラッチ機構(*1)として、トルクコンバータが使用されています。そして変速機構部がステップATとなっています。

  • ステップATの内部は、トルクコンバータ経由でエンジンフライホイールからの回転を伝達するための多板クラッチC1,C2と、3個のプラネタリギアーセット(1),(2),(3)で構成されています。そしてプラネタリーギアセット上下(リングギア周囲)には、フレームとの固定をコントロールする多板クラッチ(*2)が付いています。

プラネタリーギアセット回転組み合わせ
  • 今回ステップATの変速比について具体例を考えるにあたり、プラネタリーギアセットのサンギア $r_{s}$ とリングギア $r_{r}$ の半径or歯数比を $r_{r}:r_{s}=2:1$ とします。このとき前回レポートでまとめたものと同様な、プラネタリーギアセットの回転組み合わせは Table 1 となります。( $r_{r}=2, r_{s}=1$ を入れただけです)

    Table 1: $r_{r}:r_{s}=2:1$ のプラネタリーギアセット回転組み合わせ
    回転ケース リング/サンギア等速 リングギア固定 サンギア固定
    サンギア回転数 $N$ $N$ $0$
    リングギア回転数 $N$ $0$ $N$
    プラネタリーキャリア回転数 $N$ $N/3$ $2N/3$

1速の動き
  • まずは1速の動きから見てみましょう。Figure 2 はステップAT 1速の状態を示しています。

    Figure 2: ステップAT 1速

  • クラッチC1を接続すると、インプットシャフト(青)が $N$ 回転します。
  • ギアセット(1)のリングギアをクラッチでフレームに固定します。

  • Table 1 の「リングギア固定」より、出力となるプラネタリーキャリアの1速回転数は下記に減速します。
      1速回転数$\displaystyle =\frac{N}{3}$

2速の動き
  • 次は2速です。ギアセット(1)のリングギアを少し回すことで1速より増速します。Figure 3 に2速の状態を示します。

    Figure 3: ステップAT 2速

  • クラッチC1を接続すると、インプットシャフト(青)が $N$ 回転します。
  • ギアセット(2)のリングギアをクラッチでフレームに固定します。
    • ギアセット(2)のプラネタリーキャリアは $N/3$ 回転になります。

  • ギアセット(1)のサンギアは $N$ 回転、リングギアは $N/3$ 回転となります。これは全体が $N/3$ 回転後、リングギア固定でサンギアだけが残り $2N/3$ 回転すると考えれば良いので、プラネタリーキャリアの2速回転数は下記の減速になります。
      2速回転数$\displaystyle=\frac{N}{3}+ \left( \frac{2N}{3} \times\frac{1}{3}\right) =\frac{5N}{9}$

3速の動き
  • 3速も2速と考え方は同じです。ギアセット(1)のリングギア回転数を更に上げます。Figure 4 に3速の状態を示します。

    Figure 4: ステップAT 3速

  • クラッチC1を接続すると、インプットシャフト(青)が $N$ 回転します。
  • ギアセット(3)のサンギアは常に $N$ 回転しています。
  • ギアセット(3)のリングギアをクラッチでフレームに固定します。
    • ギアセット(3)のプラネタリーキャリアは $N/3$ 回転になります。
      • ギアセット(2)のプラネタリーキャリアは2速の計算と同様に $5N/9$ 回転です。

  • ギアセット(1)のサンギアは $N$ 回転、リングギアは $5N/9$ 回転となります。これは全体が $5N/9$ 回転後、リングギア固定でサンギアだけが残り $4N/9$ 回転すると考えれば良いので、プラネタリーキャリアの3速回転数は下記の減速になります。
      3速回転数$\displaystyle=\frac{5N}{9}+ \left( \frac{4N}{9} \times\frac{1}{3}\right) =\frac{19N}{27}$

4速の動き
  • 4速はエンジンと等回転です。ギアセット(1)のリングギアをN回転にします。Figure 5 に4速の状態を示します。

    Figure 5: ステップAT 4速

  • クラッチC1を接続すると、インプットシャフト(青)が $N$ 回転します。
  • クラッチC2を接続すると、ギアセット(2)のプラネタリーキャリアが $N$ 回転します。

  • ギアセット(1)のサンギアは $N$ 回転、リングギアも $N$ 回転となります。プラネタリーキャリアも $N$ 回転です。
      4速回転数$\displaystyle=N$

6速の動き
  • 5,6速はエンジン回転より増速になるため、ギアセット(1)のサンギアを $N$ 回転より上げる必要があります。先に簡単な6速から説明します。Figure 6 に6速の状態を示しています。

    Figure 6: ステップAT 6速

  • クラッチC1は解放します。
  • クラッチC2を接続すると、ギアセット(2)のプラネタリーキャリアが $N$ 回転します。
  • ギアセット(2)のリングギアを固定します。
    • リングギア固定時のサンギア回転数 $N_{s}$ とプラネタリーキャリア回転数 $N_{c}$ との関係より
        $\displaystyle N_{c}=\frac{N_{s}}{3}$
        → $N_{c}=N$ のとき, $N_{s} = 3N$

    • そしてギアセット(1)のリングギアも $N$ 回転しています。

  • ギアセット(1)のサンギアは $3N$ 回転、リングギアは $N$ 回転です。全体が $N$ 回転した後、リングギア固定でサンギアが $2N$ 回転すると考えれば、プラネタリーキャリアの6速回転数は下記のように増速となります。
      6速回転数$\displaystyle=N+\frac{2N}{3} = \frac{5N}{3}$

5速の動き
  • 5速の場合、6速より少しギアセット(1)のサンギア回転数を落とします。Figure 7 に5速の状態を示します。

    Figure 7: ステップAT 5速

  • クラッチC1は解放します。
  • クラッチC2を接続すると、ギアセット(2)のプラネタリーキャリアが $N$ 回転します。
  • ギアセット(3)のリングギアを固定します。ギアセット(3)のサンギアは常に $N$ 回転です。
    • ギアセット(3)のプラネタリーキャリアは $N/3$ 回転になります。
    • ギアセット(2)のリングギアが $N/3$ 回転。プラネタリーキャリアは $N$ 回転になっています。

      • 仮にギアセット(2)のサンギア回転数を $N_{s}$ とします。
      • このときプラネタリーキャリアの回転数 $N_{c}$ は、全体 $N/3$ 回転させた後、残り $N_{s}-(N/3)$ をサンギアのみ回転させたと考えれば良いので
          $\displaystyle N_{c} = \frac{N}{3} + \left\{ \left( N_{s}- \frac{N}{3} \right) \times\frac{1}{3}\right\} =\frac{3N_{s}+2N}{9}$
      • $N_{c}=N$ のとき、$N_{s}$ は
          $\displaystyle N_{s}=\frac{7N}{3}$

  • ギアセット(1)のサンギアは $7N/3$ 回転、リングギアは $N$ 回転です。全体が $N$ 回転した後、リングギア固定でサンギアが $4N/3$ 回転すると考えれば、プラネタリーキャリアの5速回転数は下記のように増速となります。
      5速回転数$\displaystyle=N+\frac{4N}{3}\times\frac{1}{3} = \frac{13N}{9}$

リバース/後退の動き
  • リバースではギアセット(1)のサンギアを逆回転させます。Figure 8 に後退時の状態を示します。

    Figure 8: ステップAT リバース

  • クラッチC1,C2とも解放します。
  • ギアセット(3)のリングギアを固定します。サンギアは常に $N$ 回転です。
    • ギアセット(3)のプラネタリーキャリアは $N/3$ 回転になります。

  • ギアセット(1)のリングギアを固定すると、ギアセット(2)のプラネタリーキャリアも固定されます。
    • ギアセット(2)のリングギアは$N/3$ で回転します。
    • このときギアセット(2)のサンギアは $-2N/3$ で逆回転します。

  • ギアセット(1)のサンギアは $2N/3$ で逆回転しています。リングギアは固定されているため、後退時の逆回転数は下記となります。
      後退時回転数$\displaystyle=-\frac{2N}{3}\times\frac{1}{3} = -\frac{2N}{9}$

まとめ...でもないですが
  • ステップATの変速方法と回転数について説明を行いました。

  • 今回は具体例を示すために、リングギアとサンギアの歯数比($r_{r}:r_{s}$)を決めていますが、当然組み合わせが異なっても同様に計算することができます。

  • このレポートでステップATの動きについてもやもやが少し晴れたと感じてもらえれば。
Notes
  • クラッチ機構は、トルクコンバータ以外に湿式多板クラッチ等もあります。
  • 初期のステップATはリングギアの固定に多板クラッチではなくブレーキバンドが使用されていました。
2018/08/08: 初版
2018/08/11: $r_{r}$と$r_{s}$の比が逆だったため修正
2018/09/13: 5速の式表現を整理
Copyright(C) 2018 Altmo
本HPについて