意外とややこしいTVデジタル化(3)
2006/11/05
このレポートについて
  • このレポートはTV放送デジタル移行の際に気になる点をまとめたものです。2006年のレポートで既に10年以上経過していますが、当時の認識を掘り起こすため旧HPから引っ張り出してきました。「現在の」という言葉は2006年当時を意味しているのでご注意下さい。

集合住宅の受信環境:通常タイプ
  • 前回までデジタル波の種類と基本的な受信環境を見てきました。 今回は集合住宅での受信環境と問題点について考えたいと思います。 まずアナログ受信における通常の集合住宅受信環境を図1に示します。

    集合住宅通常受信環境

    図1.アナログ受信における通常の集合住宅受信環境

  • 図1で示しているのは、受信環境が集合住宅の中で閉じているケースです。 アンテナからの信号をメインブースター(三角印)で受けた後、カスケード接続したサブブースターで各部屋へ配るイメージです。 デジタル環境への移行を考える場合、注意する点は
    • UHFは主要デジタル放送を受けられるのか。
    • UHFは全域を受信/分配できるのか。
    • 110度CSは受信/分配できるbのか。
    の3点になると思われます。

  • 既存のUHFアンテナが主要デジタル波を受けることができない原因は2種類あるでしょう。
    • UHF ALLチャンネルに対応していない。→ 交換決定!
    • 向きが悪い → 向きを直す or 欲しい方向にアンテナ追加

  • ケースとしては少ない(ほとんど無い)と思うのですが、信号配線としてUHF全域を配分できない場合、 UHF全帯域の増幅ができないタイプのブースターが使用されている場合ですが、これもブースター交換になります。

  • 最後は110度CSですが、アンテナが対応していない場合は交換です。 更に、建屋内の配線もダウンコンバート後のCS波(〜2.4GHz)を増幅/分配できなければなりません。 NGであればブースター交換です。(*1)

集合住宅の受信環境:受信障害タイプ
  • 次は受信障害の影響を受けた集合住宅が、受信対策としてCATVを経由したVHF/UHF視聴を行っているケースです。図2に受信環境の例を示します。

    集合住宅障害系受信環境

    図2.アナログ受信における障害対策が入った集合住宅受信環境

  • 図2を見るとわかるように、従来であればCATV局はVHF帯まで対応していれば問題ありませんでした。 しかし、近年のデジタル視聴の要求から、UHF帯で地上デジタル波を流し(パススルー)、 使用されていないUHFのUpper帯域でCATV独自の展開を狙っているようです。

  • 集合住宅住人から見ると、素直にCATVからの信号を受ければ良いと思うのですが、ここで思わぬ障害が発生します。 それは今まで発生していなかった月々の利用料金です。

  • この理由ですが、CATVの設備利用料を負担していたのは、受信障害の原因となった建屋の所有者/自治体が負担していたからです。 しかしデジタル放送波の場合、同様な理由での受信障害は原理的にほとんど起こらない(*2)ので、 アナログ波停止に伴って原因者の費用負担義務は無くなります。 結果的に今後もCATVによる視聴を続けるには集合住宅自身で費用を負担しなければならないのです。

  • 更に悪いことに、CATV側はUHF帯域+αをフル活用したいため、UHF帯域増幅に不安のあるブースターを使用している場合は、当然交換を要求してきます。しかしながら受信対策が適用された建屋は、ここに不安を抱えているケースがむしろ多くなります。つまりCATVを利用する場合でもブースター交換が絡むことで、膨大な費用(100万円以上)が発生してしまうこともあるのです

  • ならばということで、CATVから110度CSを含む自力受信環境への移行を検討し始めた場合、受信障害系のほとんどのケースで110度CSを分配するためにブースター交換が高確率で必要になると思われます。費用的なメリットは小さいということになります。

  • 結局どちらを選ぶべきかについては、チャンネルの好み(CATV vs 110度CS)や、月々の設備利用料負担処理と絡んで非常にややこしい状態になってしまうのです。集合住宅の理事会の方にとっては頭が痛い問題でしょう。

たたき台を...
  • このままだと話が全く進まないので、似たような件で悩んでいる方へ「たたき台」を提示してみたいと思います。私の個人的な意見としては「VHF/UHF/BS/110度CSを含めた自力受信環境へ移行すべき」だと考えています。

  • この理由ですが「110度CSが受信できない」と言った時点で不動産価値が下がってしまう可能性があるからです。従来の住人はCATVの延長ということで、少しチャンネルが少ないCATVも問題無いと思いますが、外部で110度CSを利用していた人から見ると
    • 利用できるチャンネルが(少し)少ない
    • 視聴費用が(少し)高い
    と細かい面でのデメリットが多く映ります。

  • こういった声を受けて、各戸の不動産価値が50万程度落ちたとすれば、集合住宅全体として、すぐに1000万円級の資産価値低下になります。100万円をケチって1000万円下がるのはどうかと思うわけです。

  • もう一つはVHFの利用です。現在VHFは何に利用されるのかが明確ではありません。VHF帯をCATVに握られたままだった場合、何かしらの新メディアがVHFで登場しても、タイムリーに利用することが難しいかもしれません。

  • CATV側のサービス/品質維持にも懐疑的です。CATV以外の視聴手段を持たないことが明確な場合、視聴料金を下げる方向へ力が働くことは無いでしょう。CATV側の言い値で決まることになります。CATVに対するサービス向上への圧力がほとんど無くなってしまいます。

  • 決め手は、テレビの台数だけCATVチューナが必要だということです。これは110度CSと比べて大きな差です。パススルー放送はまだ良いとして、有料チャンネルには全てCATVチューナが必要という状況では...。これらが、自力受信環境整備を進めた方が良いと思える理由です。

まとめ
  • 3回に渡って、デジタル放送受信環境の話をしてきました。3回目では集合住宅に的を絞りましたが、実は私の住むマンションも悪い意味でビンゴです。費用の工面の問題もあり、理事会の方も非常に困っているようです。「こんなので、日本全国スムーズに進むんでるのかな?」というのが素朴な疑問です。

  • そんな事情から共同受信までは時間が掛かりそうなので、とりあえず小さなUHFアンテナを設置し、一時的な受信環境でデジタル放送を楽しんでいます

  • 今回のたたき台案では、CATVを選びませんでしたが、それは「ブースター交換は免れない」という前提が入っています。この前提が崩れれば、CATV利用は整備費用面から見て大きなアドバンテージを持つ点については、誤解無きようお願いいたします。

  • うーむ。早いところ「つなげれば見える」という状態になって欲しいなあ。
Notes
  • 運が悪いと、同軸ケーブルも交換に...。
  • 地上波デジタルの伝送方式OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)では、あえて時間的な冗長部を持たせることで、時間軸方向のガードバンド(ガードインターバル)を構成しています。自分+自分の一部コピーを単位とし、マルチパス受信時に同じ部分は切り捨てるという方法です。この結果ゴーストの影響をほとんど受けません。
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