FB20/FA20DITエンジンの環境性能(1)
2020/09/11
実はあまり気にしていなかったけど
  • 2020/8/20にSUBARU新型LEVORGの先行予約開始に伴って情報が公開され始めました。現在FORESTER(DBA-SJG)を愛車としている私もSUBARUユーザの一人として、その情報を見たりするわけですが、この新型LEVORGに搭載されたエンジンCB18がリーンバーンであることに驚きました

  • 情報収集を怠っていたなぁと反省しました。モーターと組み合わせるのかな、FB16の1800cc版を載せるのかなと予想していましたが、本当の意味での新型エンジンになるとは思っていませんでした

  • 多分ですが、私を含めた多くのSUBARUユーザは、パワー/トルクといったエンジンのスペックには興味があっても、燃費/環境性能については、あまり気にしていなかったのではないでしょうか。とは言うものの、CB18のリーンバーン...環境性能を理解するには、その前準備として現行エンジンであるFB20/FA20DITの環境性能について知る必要があると感じました。今回はそこをまとめてみようと思います。

FA20DITはFB20系統のエンジン
  • FORESTER(DBA-SJG)はFA20DITエンジンを搭載しています。このFA20DITエンジン、FA型ですがエンジンの設計思想はBRZ/86に載っているFA20と異なり(*1)FB20の系列になっています。

    Figure 1: FA20DIT

  • FB20に適用されている環境性能についてはこちらの技術論文によると、燃焼室検討と摩擦低減は継続的改善と言えますので、特徴的な仕掛けとしては下記の3点になると思っています。
    • EGRクーラ (EGR: Exhaust Gas Recirculation)
    • AVCS (AVCS: Active Valve Control System)
    • TGV (TGV: Tumble Generator Valve)

理解準備(1): ストイキ燃焼
  • 環境性能に関する機能の話を始める前に、それらを、特にガソリンエンジンでのEGRを理解する「準備」として、初めにストイキ燃焼を扱います。

  • ガソリンを完全に燃焼するさせるための、ガソリンと空気の空燃比(=空気/ガソリン)は「14.7」であり、この完全燃焼時の空燃比を理論空燃比と呼びます。

  • 理論空燃比の状態であれば、ガソリンと空気の燃焼は、その化合物組成から想定された化学式通りの反応になりますが、想定した「化学式通りの組成」であることを、化学用語でストイキオメトリ(stoichiometry)と言います。これよりガソリンを理論空燃比の状態で(化学式通りに)燃焼させることを「ストイキ燃焼」と呼ぶわけです。
    • オクタン/ガソリン燃焼の反応式: 2C8H18 + 25O2 → 16CO2 + 18H2O

  • 2000年以降のエンジンは、このストイキ燃焼をベースとしています。FB20/FA20DITもストイキ燃焼が基本です。

  • 先程示したオクタン/ガソリン燃焼の反応式では、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)のみ発生し、有害物質(*2)は無いように見えますが、これはあくまでも酸素(O2)とオクタン/ガソリンの反応です。大気は約2割のO2以外に、その約8割が窒素(N2)で構成されますが、ガソリン燃焼時に発生する高温によってO2と反応し、有害な窒素酸化物(NOx)が発生してしまうのです。

    Figure 2: 空燃比と排気ガス中有害物質濃度(*3)

  • 理論空燃比であれば全てのO2が燃焼に使用されるはずですが、O2から見れば、シリンダ燃焼室内では燃料(CH有機化合物)とN2が一様に存在するため、高温であればどちらとも反応します。Figure 2を見ると理論空燃比近辺でNOx濃度のピークがあります。理論空燃比近辺の効率的燃焼によって燃焼温度が上昇し、NOxもまた生成されてしまうことを示しています。

  • ガソリンエンジンのシリンダ排気ポートでは、NOx/CO/HCといった有害物質が混ざっています。特にストイキ燃焼ではCO2とNOxの量が増えます。しかし、これらはそのまま排ガスとして出されるわけではありません。排気系に置かれた触媒によって清浄化されます。

理解準備(2): 三元触媒
  • 排ガス中の有害物質を浄化する役割を持つ触媒ですが、特にガソリンエンジンの排ガス有害物質であるNOx/CO/HCをターゲットにしたものが三元触媒(TWC: Three-Way Catalyst)です。

    Figure 3: 三元触媒

  • 触媒とは化学反応を促進する物質です。触媒自身は化学反応の前後で変化しません。ガソリンエンジンの排ガスを処理する三元触媒では白金(Pt)/パラジウム(Pd)/ロジウム(Rh)が触媒として使用されます。促進させる反応は下記です。有害なNOx/HC/COが、無害なN2/H2O/CO2に変わります。
    • NOx →(還元)→ N2 + (O2)
    • CO →(酸化)→ CO2
    • HC →(酸化)→ H2O + CO2

  • 上記を見て気付かれたと思いますが、COとHCの酸化に必要なO2は、NOxの還元反応によって供給されます。またその逆、NOxの還元にCOとHCの酸化が必要とも言えます。つまり三元触媒を機能させるには、CO/HCの量に見合ったNOxが必要なのです。Figure 2で見たようにNOxの濃度はストイキ燃焼近辺でピークになりますが、三元触媒を想定通り機能させる前提としてストイキ燃焼持の排出物質比率保持があるのです(*4)

  • ストイキ燃焼は効率的にエネルギーを取り出すという目的以外に、排ガス清浄化の観点からも必要になっています。

燃費の向上は難しい...そして次回へ
  • ここまでの説明を読んでいただければ、燃費向上を実現するためには、単純に燃料の使用量を減らせば良いわけではないことが見えてくると思います。シリンダーの容量が決まっている以上、そこに入れ込む燃料の量も決まってしまい、それ以下にするのは難しいのです。

  • この難しさを理解した上で、どうやって問題をクリアしたのかという観点で各社エンジンの環境性能/燃費向上技術を眺めると、いろいろなアプローチがあって面白いです。

  • 今回は準備で終わりましたが、次回以降FB20/FA20DITの環境性能、その後CB18のリーンバーン技術について話を進めていきたいと思います。
Notes
  • ボア×ストローク=86mm×86mmという点だけがFA20と同じ。性能を引き出そうとする回転数ターゲットは異なります。
  • 大気に二酸化炭素を排出していますが「人が吸ったら有害なもの」という観点で話を進めます。
  • ネットから拾ってきたグラフです。出典は"自動車工学2004年7月号"とのことです。
  • あと追加の条件として、触媒をある程度以上の温度にする必要があります。触媒がエンジンの近くに配置されているのは、その熱を利用するためです。
2020-09-11: 初版
2020-09-12: 三元触媒説明記述修正。
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