FB20/FA20DITエンジンの環境性能(2)
2020/09/13
ガソリンエンジンの動き
  • 前回のレポートでは、理解準備としてストイキ燃焼と三元触媒の話をしました。今回はFB20/FA20DIT 環境/燃費性能向上機能の一つである、EGRクーラを扱います。

  • EGRの話を始める前に、一度ガソリンエンジンの動きを見てみましょう。Figure 1 に4ストロークエンジン(Four-stroke cycle engine)の吸気(Intake)/圧縮(Compression)/燃焼(Power)/排気(Exhaust)行程を示します。


    Figure 1: 4ストロークエンジンの行程/サイクル

  • ガソリンエンジンの場合、燃料噴射(Fuel Injection)は吸気行程で行われます(*1)。当然ながら次行程の圧縮は燃料と空気の混合気に対して行われます。原則(*2)空気圧縮であるディーゼルエンジンと大きく異る点です。

  • 前回のレポートで説明しましたが、排ガス清浄化のためにガソリンエンジンはストイキ燃焼の維持が必要です。よって吸気行程で取り込む空気量に従って噴射する燃料の量(Figure 1: 左端の吸気行程 Fuel Injectionの紫部分)は決まってしまうのです。

EGR: 不活性気体を入れて実質容量を下げる
  • ガソリンエンジンでストイキ燃焼を維持する目的は排ガス清浄化ですが、三元触媒を機能させるために排ガス中のCO,HC,NOx比率を維持するとも言い換えることができます。

  • 考えてみると、燃焼後の排ガスは三元触媒が必要とする成分比率を持ったガスです。ならば、排ガスを再度シリンダに詰めれば、吸入する空気(酸素:O2)が減るので、燃料噴射量も減らせるのではないか....というアイデアがEGR(Exhaust Gas Recirculation)です。


    Figure 2: EGR(Exhaust Gas Recirculation)

  • Figure 2はEGRの説明図になります。排気系から吸気系に戻るパスが追加されています。排気ガスは高温燃焼で生成されたものなので、再度シリンダに戻しても「燃焼時の高温でも不活性な気体」として扱うことができます。この排ガスという不活性気体でシリンダをある程度満たすことにより、吸入空気量を減らす...実質的にシリンダの空気容量を減らし、噴射燃料も減らすことができるのです。

  • ここまでのEGRの考え方、燃焼時にO2と結びつく窒素(N2)を減らして、NOx生成量を落とすことは、EGRに対するガソリン/ディーゼルエンジン共通の考え方です。しかし、空気圧縮を行い、その圧縮時の熱を燃焼に利用するディーセルエンジンと、混合気を圧縮してプラグスパークで点火するガソリンでは、圧縮時の熱に対する扱いが異なります

  • ガソリンエンジンの場合、圧縮時の燃料/空気混合気体温度が高くなり過ぎると、ピストンが上死点に達してプラグスパークする前に点火するノッキング(*3)が起きてしまいます。


    Figure 3: 排ガスの温度がノッキングを引き起こす

EGRクーラ: ノッキングを防止してEGR率を上げる
  • 燃費性能向上のためにEGR還流率を上げると、排気ガスの温度が高いためノッキングの問題にぶつかります。実はガソリンエンジンでも、ストイキ燃焼調整のためのEGRは存在していました。調整用EGRのため大きな還流率は設定されず、ノッキング問題もありませんでしたが、積極的にEGRを使用する場合温度/ノッキング問題への対応が必要です。

  • この対処は非常に単純です。吸気パスへ戻す前に冷やせば良いわけです。それがEGRクーラです。


    Figure 4: EGRクーラ(EGR Cooler)

  • EGRは水冷のモジュールです。EGRパスの排ガスを水で冷やして吸気パスへ戻します。このEGRクーラによって、EGRの還流率を向上させたものがFB20/FA20DITのEGRになります。

  • このEGRクーラはディーゼルエンジンにもついていますが、燃焼温度を下げてNOx生成量を低下させることが目的であり、ノッキング防止というガソリンエンジン程切実な理由ではありません。同じ仕掛けでもガソリンエンジンとディーゼルエンジンでは微妙に目的の違うところがあり、ニュースや発表を見るときは注意したいところです。

次回は
  • 次回ですが、残り2つの機能である、AVCSとTGVを扱います。AVCSについてはTurbo有り無しで変わるため、そこを含めて説明したいと思います。
Notes
  • Figure 1は FB20/FA20DIT の Direct Injection を意識した図になっています。
  • PCI, HCCIがあるので完全に空気とは言いにくいのですが、ここは考え方ということで。
  • 故にガソリンエンジンとディーゼルエンジンでは圧縮率が違います。ガソリン約10に対し、ディーゼルは16前後です。尚、PCI/HCCIのディーゼルは間の約14。FB16の11.2という高め数値はダウンサイジングターボであることを意味しています。
Copyright(C) 2020 Altmo
本HPについて