FB20/FA20DITエンジンの環境性能(3)
2020/09/24
AVCSとは何か
  • FB20/FA20DITエンジンの環境性能に関する話の続きで、AVCS(Active Valve Control System)です。今回推測で書いているところも多いため、その点は予めご了承下さい。

  • AVCSは吸気または排気カムシャフトの回転位相を変えることでバルブタイミングを制御する仕組みです。位相の切り替えは油圧バルブを介して行われます。VTECのようにバルブリフト量を変えているわけではありません。


    Figure 1: AVCS

  • FB20/FA20DITエンジンは、吸気側と排気側カムシャフトの両方にAVCSを持つため、Dual AVCSと呼ばれます。

  • 排気側AVCSは、タイミング0度(center)/遅角(retard) の二種を設定できます。そして吸気側AVCSは 進角(advance)/タイミング0度(center)/遅角(retrad)の三種類を設定(*1)できます。

  • 環境性能を向上させる仕掛けの一つとしてAVCSを説明するわけですが、もともとAVCSを含む所謂バルタイ調整は、むしろパワーを効率良く取り出すことが最初の目的だったこともあり、使い方で環境性能とパワーの両方が向上します。以降のセクションで、それぞれを説明します。

自然吸気もしくは低回転時: 吸気バルブの遅閉じ
  • 通常であれば、吸気(Intake)から圧縮(Compression)サイクルへ移り変わる際、ピストン下死点(BDC: Bottom Dead Center)の少し前(*2)で吸気バルブが閉じられます。その後混合気の圧縮が始まります。


    Figure 2: 吸気から圧縮(タイミング0度)

  • ここで、もし吸気バルブの閉じを遅くしたらどうなるでしょうか。圧縮が始まるタイミングでも吸気バルブが空いているため、シリンダ内気体はピストンに押されて吸気バルブから出ていきます

  • すると出ていった気体容量の分、圧縮時のシリンダ容量は小さいと見なすことができます。容量が小さくなった分、必要な燃料も少なくなります。この後、燃焼サイクルでピストンは下死点まで戻るため「圧縮比 < 膨張比」のミラーサイクルが実現されます。


    Figure 3: 吸気から圧縮(吸気バルブ遅閉じによるミラーサイクル)

  • 自然吸気もしくは低回転時では、吸気ポートからの空気流入速度が遅いので、ピストンは小さい抵抗でシリンダ内気体を吸入ポートへ戻すことができます。

  • 高回転時は吸気ポートからの空気流入速度が上がるため、低回転時と比較してシリンダ内気体が吸入ポートへ戻る量は少なくなり、元々のシリンダ容量に近い圧縮比を得ることができます。パワーが欲しい故の高回転なので都合良いのです。更にパワーが欲しければ、吸気バルブ遅閉じをキャンセルします。

  • 吸気バルブ遅閉じによるミラーサイクル化は、自然吸気のエンジンと相性が良い方法と言えます。

Truboブースト時: 吸気バルブの早閉じ
  • しかし、Turboチャージャーを搭載したFA20DITのような高性能ガソリンエンジンや、圧縮に対して遠慮が無いためTurboブーストを効かせ続けているディーゼルエンジンで「吸気バルブ遅閉じ」によるミラーサイクル化を行った場合、圧縮時のピストン負荷(摩擦)が目立つようになってきます。

  • こういったエンジン/運転状態の場合は異なるアプローチ、吸気時のシリンダ容量に対する「ブースト/圧縮率」を変えるという考え方になります。これを実現するのが吸気バルブ早閉じです。


    Figure 4: 吸気から圧縮(吸気バルブ早閉じによる吸気圧縮率減少)

  • まず前提として吸気側はTurboによってブーストされているとします。上死点(TDC: Top Dead Center)から下がると吸気されていきますが、大気圧より高い圧縮状態で空気がシリンダへ満たされていきます。

  • その後、シリンダの下死点到達前に、吸気バルブ早閉じによって吸気が停止しますが、シリンダ内空気は大気圧以上に圧縮されているため負圧になりません。ピストンは抵抗無しに空気圧縮率を緩めながら下死点へ到達し、圧縮サイクルへ移ります。

  • 空気圧縮率が下がれば必要な燃料も減ります。そして、この方法ではシリンダ内の空気圧縮率の低下に伴って温度も下がることから、ノッキング防止にも一役買います。

パワー向上: 吸気/排気バルブのオーバーラップ
  • ここまでAVCSを利用したミラーサイクル化または吸気圧縮率低下による環境性能向上について話をしましたが、最後はAVCSを利用したパワー向上です。


    Figure 5: 吸気から圧縮(排気バルブ遅閉じによる吸気/排気バルブオープンのオーバーラップ)

  • Figure 5で示されるように、排気バルブを遅閉じにすると、排気から吸気サイクルへの切替時に、吸気/排気両バルブがオープンとなるオーバラップが発生します。

  • パワーを必要とする状態では高回転のため、吸気側の圧力が上がっています。するとオーバーラップによって燃焼室に残った排気が、吸気ポートからの空気流入によって排気ポートへ押し出される状態、すなわち燃焼室の掃気が進みます。

  • このオーバーラップによる燃焼室の掃気は、吸気ポートと排気ポートの圧力差を利用しているため、ピストンが上死点付近にある状態でも効果が現れます。

  • 結果として、燃焼室掃気が行われる分、吸気効率が向上します。吸気効率が上がれば燃料噴射量も増やせるため、取り出せるパワーもまた上げることができるのです。

  • 更に高回転/高ブースト時は、このバルブオープンのオーバラップ時間を増やすために、吸気バルブのタイミングも早くします。このようにエンジン回転数/ブースト圧で変化する吸入速度に合わせたオーバーラップ時間の調整によって効率的なパワー向上が実現されています。

次回は
  • 次回が最後になりますが、タンブル流と燃焼の関係を扱いながらTGVの話をしたいと思います。
Notes
  • アイシンの中間ロック付きVVTと時期が重なるというか、多分同じ。
  • 図では丁度のタイミングで閉じていますが作図都合です。脳内補完お願いします。
2020-09-24: 初版
2020-09-26: 説明文言全体見直し。Figure 1修正。
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